労働
俺が高校を卒業するくらいの時に、初めてアルバイトを始めた。
駅前にあるチェーン店の居酒屋で、時給は1000円とかで22時以降は1200とかそんな感じだった気がする。バイトを始めた理由としては、当時パソコンでプレイするゲーム所謂『ネトゲ』にハマっていて、ハイスペックな自分のPCが欲しかったから。(それまでは親父が会社から持ってきたメモリが2GBしかないパソコンで遊んでいた)
ちなみに、居酒屋のバイトに応募する前にマクドナルドにも応募してたんだけど、面接で落ちた。
――――――――
「じゃあ履歴書見せてね」
「ヨロシクオネガイシマス....」
「何でバイトしようと思ったの?何か欲しい物でもあった?」
俺は、何で履歴書に書いてあるような事一々聞いてくるんだろう....って思ってた。
「僕、旅行とか好きで友達と良く色んな所に行くんですよ」
「へー、そうなんだ」
これは明らかな嘘だから、多少は後ろめたかった。
「じゃあいつから入れる?鈴木君の紹介でしょ?」
「あ、はい。いつからでも大丈夫ですよ」
「なら来週から来てよ、よろしく~」
「はい、有難うございました....」
こうして初めてのアルバイトが始まったんだけど、正直働きたくはなかった。
「宜しくお願いします。○○です」
「おー、よろしく~~~」
キッチンに入ることになった俺は、新人でも大体出来るってことで『揚げ場』をやらせてもらう事になった。冷凍保存されてる食品を、ただフライヤーに入れるだけの仕事だった。
1カ月くらいバイトを続けてると、キッチンの人達とも多少仲良くなれてきて、先輩の佐々木さんは結構やりたい放題してるなって事が分かった。オーダーの入ってない串物を勝手に焼いて摘みながら働いてたし、酷い時は客に出すフライドポテトをホールの人に渡す前に摘み食いしたりしてた。
「俺も適当にやるか~~」
なんて思いながら、その日は金曜日で早朝5時のラストまで働く日だった。
午後23時を回ったくらいの頃、オーダーでお茶漬けが入ったので、さっさと作って休憩に入ろうとしてた。
「出汁ってこれか?出汁いれて鮭をのせて....」
横でマニュアルを広げながら、出来た料理を提供し終えたので休憩に入ろうとした時、
「おい○○、このお茶漬け食ってみろ」
「え?」
「いいから食ってみろって」
「はぁ....っ!?しょっぺえ!!」
俺はこの時、別の料理に使う出汁か何かを使ってたみたいで
「お前こっち使ったろ?適当な事やんなよな、お客さんは優しくて『いーよいーよ』なんて言って許してくれたけどさ」
「すいません....」
「これ、失敗した料理もさぁ、俺の給料から引かれるんだよね、マジで頼むわホント」
「....スイマセン」
――――――――
「あ、お疲れ様です。今日はスミマセンでした」
「あー、いいよ別に。お疲れ様」
「すいませんでした....あ、店長来週のシフトなんですけど、ちょっと親戚の集まりで一週間休みもらってもいいですか?」
この時俺は、夏コミというオタクのイベントに行きたくて親戚の集まりなんて嘘をついてしまった。
「集まり?まあいいけどさ」
「ありがとうございます。お疲れ様でした」
夏の朝5時はとても涼しくて、いつもは人で埋まっている駅前のアーケード街も、この世界に存在している人間は俺だけじゃないのか...?とか思っちゃう程に人がいなくて、来週のコミケも相まって気持ちが高揚していた。
実際初めてのコミケはメチャクチャ楽しかったし、コミケの他にも色々行きたいとこに行けてとても充実した夏休みだった。
仙台に帰ってきて、バイトのLINEグループを覗いてシフト表を確認したら、俺の名前が書いてあった列は白紙になってた。
そこで俺の初めてのアルバイトは終わった。パソコンは買えた、13万。
なんで?