それでも想い出は色褪せないから

 

 以前、学生の時に某電気通信事業社のコールセンターでアルバイトをしていた時の話。新しい通信サービスが始まるという事で、それに伴いオープニングスタッフを募集していた。

 

「時給高いな....応募してみるか」

 

自称、電話口なら態度武蔵坊弁慶の俺は早速電話をかけた。

 

 

結果から言うと採用された。面接に行って、簡単な数学の問題をやらされて(なんで?)終わり。そのまま軽く説明受けて、職場に入るためのカードキーやらなにやら貸与されてその日は帰らされた。

 

 

―――――――

 

 

「じゃ、休憩頂きますね」

 

「う~い」

 

アルバイトが始まって一ヶ月が経った。

業務初日に声を掛けてくれて、仲良くなった隣の席のニイちゃんに断りを入れて休憩室に向かう。休憩室の隅の方でyoutubeを見ながらニタニタしていると

 

「え!○○先輩ですよね?」

 

「ヒャ」

 

「え~!何でいるんですか(笑)」

 

中学の時の後輩だった『のぞみ』だった。おっぱいがデカかった。

 

「あ、バイト....」

 

「そりゃバイトでしょ(笑)」

 

「まぁ....」

 

 「○○先輩いたんですね、一カ月も経つのに全然気付かなかったです」

 

「まぁ、人多いしね。それに休憩時間もみんなバラバラだから」

 

「先輩の席どこです?」

 

「出口側の方の端っこ」

 

「あ~、私まるっきり反対側ですもん」

 

「ふーん」

 

「あ、休憩時間終わりますね。戻りましょうか」

 

そもそも何で知り合いなのかというと、中学時代『のぞみ』の部活の先輩だった女子と仲が良く、その関係で『のぞみ』とも絡む事が多かった。学校で会えば挨拶をしてくれる、街中で会っても声を掛けてくれるし、先輩女子を交えて遊んだ事だってある。でもそれだけ。それ以上でも、それ以下でもない関係だった。あとおっぱいがデカかった。

 

 

―――――――

 
 

「○○先輩~!」

 

「ヒャ」

 

午後22時。その日の業務が終了し、荷物をまとめて帰ろうとしていると、『のぞみ』に声をかけられた。

 

「よかったら今からご飯とか行きませんか?」

 

Fカップの胸を見る俺。

 

ま、当然行きますわな

 

二人でビルを出て、オフィス街を歩く。中学の時の話や、最近あった事とかを適当にアホ面で話しながら歩いていると

 

「あれ、のぞみ?」

 

「あ、タツヤとリョウマじゃん!」

 

『のぞみ』と同じ部活で、当時『のぞみ』と付き合っていた後輩の『タツヤ』だった。

体育会系....プリクラを撮る時に拳を握り、片腕を前に出すポーズ(チャリで来たの奴)をするようなオラついた兄ちゃんである。

 

「久しぶり、何してんの?」

 

「え?うーん、○○先輩とご飯食べに行く所だったよ」

 

「....あっ、○○先輩チャース」「ッス」

 

「....ウス」

 

この二人は話した事もほとんどなかったので気まずかった。

 

「あ!そうだ、みんなで飲みに行かない?」

 

「え?いやメシ行くんじゃなかったん?悪いだろ」

 

ウンウン

 

「いいよ!いいですよね?センパイ」

 

 

いいのか....

 

 

 ―――――――

 

 

「お疲れ様ー!カンパーイ!」

 

 

何がお疲れ様なのか、結局4人で食事をする事になった。

 

「〇〇センパイは、今どんな事勉強してるんですか?」

 

「プログラミング....とか...」

 

「あ〜〜、パソコンっスね」とタツヤ。

 

「えー、難しそー!」とのぞみ。

 

「そういえば」

これはリョウマだった。

 

「そういえば3組に加藤いたじゃん、あいつにこないだ偶然会ったんだけど、そういう系の勉強してるって言ってたぜ」

 

「うわー!加藤とか懐かしいな!」

 

「ね、懐(ナツ)い笑」

 

誰だよ。

 

そこからはもう、会話に混ざることが出来なかった。3人は同級生あるあるで盛り上がっていた。俺はメニュー表に載っている「ウチの店のこだわり」を端から端まで読むことしか出来なかった。

 

 

 ―――――――

 

 

「楽しかったー!ご馳走さまでした!」

 

「ゴチです!」「ッス!」

 

「アッス」

 

飲み代は俺が出した。ただ生まれたのが一年早いだけの、俺のちっぽけなプライドと周りの目を気にして。誰も俺の事なんか気にしていないのに。

 

 

 

 改札手前で時刻表を見て、終電がない事を確認する。

 

 「帰りのタクシー代....はあるな」

 

 

帰れるだけの金がある事を確認した俺は薄くなった財布を無造作にポケットに突っ込み、そのままタクシープールへと向かった